ハンドドライヤー自粛は本当に必要だったのか?──科学とマナーのすれ違い
新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年以降、日本中のトイレから姿を消したものがある──それがハンドドライヤーである。公共施設や駅、ショッピングモールの洗面所では、紙を使うか自然乾燥しか選べなくなった。 その理由は「飛沫を拡散させるから危険」というものだった。しかし、これは本当に正しかったのだろうか? 結論から言えば、明確な科学的根拠は存在しなかった。 ハンドドライヤー=危険というイメージの正体 ハンドドライヤーはその風圧によって、手の水分だけでなくウイルスや細菌を空中に飛ばすのではないかという懸念が広がった。特に“ジェット式”と呼ばれる高速風タイプは、「菌をまき散らす」というイメージが強かった。 ところが、ダイソンやパナソニックといったメーカーの実験や、複数の大学・医療機関の調査では、「飛沫感染を助長する明確な証拠はない」「むしろ手洗い後に十分乾燥させない方がリスク」とする結果が報告されている。 実は紙より衛生的? さらに、使い捨てのペーパータオルと比べても、ハンドドライヤーの方が接触がなく衛生的という指摘もある。ペーパータオルの設置器具や廃棄容器に触れることで、逆に再汚染が起きる可能性も否定できない。 また、ハンドドライヤーは使用のたびに清掃やフィルター交換がされる前提だが、ペーパー類は補充放置されたままになっていることも多い。 不安に基づく“自粛”のメカニズム それでも、なぜ全国的にハンドドライヤーは一斉に止められたのか? 「万が一」が許されない同調圧力 SNSで広がった「怖い」「菌が舞う」という印象 管理者側が“クレーム回避”を優先した判断 こうした科学ではなく“印象”と“空気”に従った決定が、制度として一気に広まったのである。 科学的な“正しさ”と社会的な“正しさ”のズレ 感染症対策は、科学的知見と社会的納得の両方が必要だ。しかし、「科学的に危険とは言えない」ことを社会が受け入れるには、非常に長い時間と教育が必要になる。 その間に取られる措置は、しばしば過剰防衛・形式的安心に傾きがちであり、今回のハンドドライヤー自粛はまさにその典型例である。 まとめ:不安は理解する、だがそれだけでは足りない 誰もが最善を尽くそうとした結果の自粛であることは否定できない。だが、一度広まった不安に基づくマナーやルールは、科学が否定してもなかなか戻らない。 私たちはこれからの感染対策において、「印象」ではなく「検証された事実」に基づく判断を重ねていく必要がある。その第一歩は、“正しさ”を疑うところから始まるのかもしれない。 こうしたマナーと科学のすれ違いは他にも存在する。関心のある方は以下のまとめ記事を参照して欲しい。 「それ、本当に正しいのか?」──マナーと科学のすれ違い8選