日常生活で「良かれ」と思って行っている行動が、科学や工学の視点から見るとまったく逆効果であることは珍しくない。
社会的な常識やマナー、善意の行動が、技術設計や制度設計と衝突することは少なくない。しかも、それが“正しいこと”として長年信じられてきたとなると、もはや修正は困難である。
本記事では、そうした「合理的に見えて、実は不合理」──すなわち合理的に不合理な8つの事例を紹介する。
1. エスカレーターの片側空けマナー
概要: 急ぐ人のために片側を空けて乗るのが“良いマナー”とされているが、これは機械設計上は完全に誤りである。偏摩耗やチェーンへの負担が蓄積し、寿命が縮む。しかも、歩行時の転倒事故リスクも高い。設計者からすれば「やめてほしい」使用法である。
2. 優先席でスマホの電源を切る
概要: ペースメーカーへの電波干渉を防ぐために「スマホの電源を切る」マナーが広まったが、現代の医療機器は高い耐性を持ち、ほぼ無意味である。実際には「一斉ON/OFFで逆に通信負荷が集中」することで、想定外のトラブルも生じ得る。
3. ハンドドライヤー使用自粛(コロナ禍)
概要: コロナ禍で「飛沫拡散の温床」として非難されたハンドドライヤー。だが、メーカーや複数の研究では感染拡大の根拠は見つかっていない。むしろ衛生的かつエコであり、使用自粛は“なんとなく不安”が先行した対応である。
4. 紙ストローはエコという誤解
概要: プラスチックごみ問題の象徴として紙ストローが普及したが、製造には水・エネルギー・薬品が多く必要で、CO2排出量は紙の方が高い場合もある。使い心地も悪く、実際は“エコっぽさ”を演出しているだけの可能性が高い。
5. レジ袋有料化は本当に効果があったか?
概要: レジ袋削減は“脱プラ”政策の一環として導入されたが、実際には多くの人がゴミ袋として再利用しており、別途ゴミ袋を買うようになっただけである。代替の厚手袋や紙袋はむしろ環境負荷が高いこともある。
6. 割り箸を使うのは森林破壊?
概要: 「森を守るために割り箸をやめよう」という運動がかつて盛んだったが、日本の割り箸は間伐材や端材が中心で、林業の持続性に寄与する側面もある。消費減がかえって山林管理の衰退を招いたという皮肉な事実もある。
7. 冷房は28度設定が正解?
概要: 「エコな温度設定」として定着した28度だが、これは科学的根拠なく行政がなんとなく決めた数値である。28度設定で実際の室温がそれに届かず、熱中症リスクや作業効率の低下が発生する例も多い。
8. アイドリングストップはいつもエコ?
概要: 停車時にエンジンを切るのがエコとされるが、頻繁な再始動によるバッテリー・セルモーターへの負担や、再始動時の燃焼効率低下により、短時間ならかえって環境負荷が高いこともある。状況に応じた判断が必要である。
まとめ:善意と科学がすれ違うとき
これら8つの例に共通しているのは、「社会的な善意」や「なんとなくの正しさ」が、技術的・科学的な現実と食い違っているという点である。そしてそれらは、誰かを責められるようなものではない。
むしろ、人間の価値観と科学技術がすれ違う場面を、どう乗り越えるかが重要なのである。
本記事が「正しいと思っていたこと」を問い直す一歩になれば幸いである。
次回からは、これらの事例を1つずつ掘り下げていく予定である。