「良かれと思ってやっていた」行動が、実は──
駅やショッピングモールなどで、エスカレーターの片側を空けて立つ──多くの人が「急ぐ人のためのマナー」として自然に実践している光景だろう。しかしこのマナー、エスカレーターの設計思想と完全に逆行していることをご存知だろうか?
設計者にとっては“やめてほしい”使用法
エスカレーターは、本来「両側に人が立って使用する」ことを前提に設計されている。つまり、片側だけに荷重がかかることは想定されていないのだ。
片側空けによる偏荷重が続くと、次のような問題が発生する:
- 段差部の偏摩耗:片方のステップばかりが擦り減る
- チェーンへの負担増:歪みが生じやすくなり、メンテナンス頻度も増加
- 寿命短縮:設計寿命より早く故障・交換が必要になる
結果として、安全性も経済性も損なわれてしまう。
転倒リスクも無視できない
エスカレーターで歩くこと自体もリスクがある。可動部の上を歩く行為は不安定であり、急停止時には転倒や多重衝突の危険がある。
実際、国土交通省や鉄道各社も「エスカレーターでは歩かずに両側に立つ」よう呼びかけている。これは単なる“お節介”ではなく、実際の事故件数や設計基準に基づく合理的な提言なのだ。
「急いでいる人のために」は本当に合理的か?
確かに、片側を空ければ「急いでいる人が早く移動できる」という一面はある。しかし、それが全体の流れをスムーズにするとは限らない。
- 片側しか使えないことで、結果的に輸送効率が落ちる
- 高齢者や子どもが“片側に立たされる”ことで不安定に
むしろ、両側に人が立つ方が安定的に大量輸送できるという試算もある。
まとめ:合理的に見えて、実は不合理
片側空けは、「思いやり」や「マナー」として根付いた行動かもしれない。しかし、それが設計や安全、効率の観点からは逆効果であるなら、私たちは再考すべきだろう。
本当に大切なのは、「誰かのために空ける」ことではなく、全体の安全と合理性を優先する視点なのではないか。
こうしたマナーと科学のすれ違いは他にも存在する。関心のある方は以下のまとめ記事を参照して欲しい。