「地球温暖化対策のため、冷房は28度で」
夏が近づくと、オフィスや学校、公共施設でよく目にするこの呼びかけ。
しかし、冷房を28度に設定することが本当に科学的・合理的な対策なのか?
この記事では、その根拠と限界、そして制度とマナーが生み出す“合理的に不合理”な状況について検討する。
なぜ28度という数字が選ばれたのか?
「冷房28度設定」は、環境省が2005年に開始したクールビズ(COOL BIZ)キャンペーンの一環として打ち出されたもの。
しかし後年、報道などで明らかになったのは、28度という数字には科学的根拠がなかったという事実である。
気温設定による消費電力の差は当然あるが、28度という値は、冷房による消費電力削減と快適性のバランスからなんとなく“ちょうどよさそう”とされた便宜的な数値だった。
室温28度=設定温度28度ではない
エアコンの設定温度28度=部屋の室温が28度ではない。
エアコンの位置や日当たり、建物の断熱性、部屋の広さ、人体の熱発散などの影響により、実際の室温は設定温度とはズレが生じる。
たとえば、設定温度28度でも実際の室温が30度を超えることは珍しくない。
これは、熱中症リスクの観点からはむしろ危険ですらある。
快適性と生産性の低下
人の快適性には個人差があるが、28度という温度は多くの人にとって暑すぎる。
・集中力の低下 ・汗による不快感や衣服の汚れ ・PCや電子機器の発熱による悪循環
といった副作用を生み、業務効率や健康状態にも影響を与える可能性がある。
つまり、省エネの名目で採用された28度設定が、かえって経済的・人的コストを増やすことすらある。
実は「服装で調整して」という前提だった
本来クールビズは「軽装で過ごしやすくしよう」という運動であり、28度設定はその前提に基づく“目安”に過ぎなかった。
にもかかわらず、いつしかこの数値だけが独り歩きし、スーツ着用のまま28度設定で我慢するという、非合理な運用が広がった。
これもまた、制度とマナーがかみ合わない典型的な事例である。
結論:マナーも制度も、定期的な見直しを
冷房の28度設定は、善意のエコ行動として始まったが、科学的な再検証や制度的なアップデートが不十分なまま習慣化された。
その結果として、
- 不快感による生産性の低下
- 誤った温度管理による健康リスク
- 結果的に省エネにならない運用
という“合理的に不合理”な状況を生んでいる。
私たちは「環境のため」と思っている行動が、**本当にその目的にかなっているのか?**を時折見直す必要がある。
制度やマナーもまた、科学と同じように更新されるべき知識体系の一部なのだ。
こうしたマナーと科学のすれ違いは他にも存在する。関心のある方は以下のまとめ記事を参照して欲しい。