情報処理安全確保支援士の義務研修が廃止に──制度が変わる今こそ「罰則」の本質を考える
2025年5月、情報処理安全確保支援士(登録セキュスペ)制度に大きな変化が発表された。IPA(情報処理推進機構)は、これまで登録維持に必須だった**「義務研修」制度を廃止する方針**を明らかにした。
義務研修の廃止により、セキュスペ資格の維持にかかる金銭的・時間的コストが軽減されることは、受験者・登録者の双方にとって追い風となる。一方で、研修制度は制度の信頼性を支える要素でもあり、「制度が緩くなった」という印象を与える可能性もある。
義務研修が制度離れの一因だった?
これまでセキュスペ登録者の一部からは、次のような不満が寄せられていた:
- 年間の登録維持コストに見合うメリットが感じにくい
- 義務研修が形骸化しており、実務に生かしづらい
- 独占業務がないにもかかわらず、義務だけが重い
IPAの発表は、こうした現場の声をある程度踏まえた対応とも受け取れる。制度を持続させるには、登録者の納得感が不可欠だ。
それでも残る「罰則」の話
研修廃止は、支援士確保のために有効と思われるが、一方で、忘れてはならないのは、情報処理安全確保支援士には法律上の守秘義務と罰則が明記されているという点である。
- 第25条(秘密保持義務):業務上知り得た秘密の漏洩・盗用を禁止
- 第59条:違反した場合は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」
これを重すぎると感じる人もいるかもしれないが、実は他の士業と比較して特段厳しいわけではない。たとえば弁理士も同様の罰則があるし、営業秘密を漏らした場合は不正競争防止法により10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金が科される。
過去に執筆した以下の記事では、この罰則について他士業や法制度と比較し、冷静に評価している:
今こそ考えるべき「士業としての責任」
研修義務が撤廃されることで、資格の“ハードル”が下がったように見える。だが、守秘義務とそれに伴う罰則は依然として残る。「士業」を名乗る以上、責任も伴うという制度設計は変わらない。
資格制度の議論では「メリット/デメリット」だけでなく、「制度の背景」「社会的責任」なども踏まえて、判断することが求められる。
結論:緩和された今だからこそ、冷静な判断を
今回の制度改正でセキュスペ登録のハードルは確かに下がった。しかし、それは“楽になる”という意味ではない。法的な責任や守秘義務は変わらず残る。
これを機に、支援士登録を再検討しようとしている方、あるいは資格を敬遠していた方は、ぜひ一度「罰則の本質」についても知った上で判断してほしい。
制度は変わる。だが、責任は消えない。だからこそ、正しく知り、主体的に選ぶことが大切だ。