コロナ禍を機に、私の職場でもリモートワークが導入された。世の中的にも定着しつつあるが、導入時、印象的な出来事があった。


入社直後にリモートワーク突入

ある年、新人が入社してからわずか一か月ほどで、コロナ禍により全国的にリモートワークが推奨される状況となった。その新人は、他のメンバーがまだ様子を見ながらリモート移行を進めている中、真っ先に「リモートワークします」と宣言し、以後2~3週間まったく出社しなかった。ここまでなら積極性と捉えることもできるかもしれない。

だが、問題はその後だった。


リモートワークに必要なのは「仕事の回し方」の理解

私自身もリモートワークを経験して感じたが、これは「ある程度仕事が一人で回せる人」しか成立しない働き方だ。

リモート下では、やりとりの手段がメール・電話・チャットなどに限定される。つまり、インプット・アウトプットの情報量が少なく、会話の行間も読めない。そのぶん、自発的にタスクを回し、必要な時に必要な人に相談できる“段取り力”が要求される。

この新人は、仕事を自分で動かす経験が浅く、なおかつ性格的にも自分から質問したり、誰かに声をかけたりするタイプではなかった。


2~3週間誰にも質問せず、成果ゼロ

リモート移行後、その新人は仕事でつまずいたり分からないことがあっても、誰にも相談しなかった。質問もしない。アウトプットも無い。結果として、2~3週間にわたって仕事の成果はほぼゼロ。

当然、上司や周囲は困惑し、リモートワークの是非以前に「この人、大丈夫か?」という空気が広がっていった。

なお、誤解のないように付け加えると、これは決して上司が放置していたわけではない。リモート環境下でフォローしようにも、新人本人が「どこで詰まっているのか」「何が分からないのか」を適切に言語化できず、かつ自ら発信しようともしない状態だったため、上司側から状況を把握するのが極めて難しかったのだ。


現場を知らないまま、指示ができるわけがない

もしこの話がIT系であれば、また違った評価になったかもしれない。しかし、その職場はバリバリの製造業だった。しかも、新人は将来的に間接部門として現場に対して改善提案や指示を出す立場になる。

もちろん、入社直後にいきなり現場指導を求めるわけではない。だが、最低限「現場とはどういう環境か」を肌で感じ、「現場の声」や「製造工程」を観察・理解する必要はある。

にもかかわらず、新人は現場に触れることなく、製法の基礎すら身につけていなかった。大学で学んだ知識の再確認もせず、教科書的なアプローチもとっていなかった。正直、「製造業であることの重み」や「人に指示するという責任」を本当に理解していたのか疑わしかった。

それを新人にすべて求めるのは酷だという声もあるかもしれない。だが、少なくとも“全く出社せず”“誰にも質問せず”“成果がゼロ”という状況では、現場側が不満を感じるのも無理はない。


リモート可否は制度の問題ではない

この経験を通して痛感したのは、リモートワークが可能かどうかは“制度の整備”よりも“人材の準備”の方が重要だということだ。

特に新人や未経験者の場合、リモートワークが可能かどうかは「性格」と「仕事の回し方の理解度」が決定的に効いてくる。学力や地頭の差も、こういう局面では顕著に出る。

リモートは便利な反面、自立できない人にとっては“孤立”に変わる。だからこそ、誰もが無条件にリモートできるわけではないことを、企業も制度設計時に織り込む必要があると感じた。


リモートワークと新人育成。この両立は、単なる「ツールの使い方研修」ではなく、“働く姿勢”や“段取りの習得”という土台がなければ成立しない。その教訓は、今でも忘れていない。