3D CAD設計の現場では、未だに「形ができればそれでいい」という感覚が根強く残っている。しかし、複雑化する製品設計や再利用性の要求が高まる中で、構造的なCAD設計=リファクタリング的視点が不可欠になりつつある。
履歴ツリーは設計スクリプトである
3D CADにおけるフィーチャーツリー(履歴ツリー)は、単なる見た目の一覧ではない。**操作は逐次実行されるスクリプトであり、順序の依存性が極めて高い。**たとえば、スケッチ → 押し出し → フィレット → カットという一連の手順の順序を変えれば、モデルが崩壊することすらある。
2D CADの「順番は自由」的な感覚のまま、3D CADを“お絵かきツール”のように使うと、設計の再利用性や保守性を著しく損なう。
命名は意図を伝えるための責任
3Dモデルの各フィーチャーに対して「押し出し1」「フィレット2」などの自動命名のまま放置していないだろうか? 命名とは設計の意図を伝えるための唯一の痕跡である。
命名がなければ、その履歴は“意味を持たない暗号列”に過ぎず、後工程や他者による改修は困難になる。命名は作業の手間ではなく、設計者としての説明責任の一部である。
座標系の一貫性は後工程の命綱
「正面」「上面」などの空間基準が部品ごとにバラバラでは、組立図や図面出力、アセンブリ挙動に支障が出る。
設計初期段階で「組立図に合わせて正面を揃える」というルールすら徹底されていない現場も多く、後工程での手戻りやトラブルの温床になっている。
CG業界との対比で見える構造意識の差
3D CG(ゲーム・映像)業界では、構造化・命名・命令の順序といったリファクタリング的視点が強く根付いている。たとえば:
- モデルやボーンの命名がスクリプトに直接使われる
- ゲームエンジンとの連携においてY軸アップや階層構造が必須
- 分業が前提なので、構造的整合性が文化として形成されている
一方で、CAD業界では「一人で図面を完成させればいい」という文化が根強く、設計構造そのものへの意識が著しく希薄である。
なぜ構造意識が育たなかったのか
これは、2D CAD文化の延長に起因する。
- 2Dでは順番や依存の概念が希薄
- 構造化の代替手段であるレイヤーも限定的
- 3D CADがGUI的に扱えるようになったことで、本質を学ばずに“使えてしまう”状態が生まれた
結果、スクリプトとしての履歴構造、構造化されたデータとしてのCADモデルという視点が普及しなかった。
設計のリファクタリング文化を育てよう
これからのCAD設計に必要なのは、ソフトウェア設計と同じく**「可読性」「再利用性」「構造性」**を重視する文化である。
- 命名は意図の伝達
- 順序は依存関係の表現
- 座標系は空間整合性の基盤
そして、リファクタリングとは「悪い設計を正すこと」だけでなく、「良い設計をより強固にすること」でもある。
設計者が自らの作業をコードと同じように“読む”“直す”“構造化する”こと。それがこれからのCAD文化を変える第一歩だ。