PDCAではなぜ不十分か? PDCAの先を考える

製造業の現場にいれば、一度は聞いたことがあるはずの言葉――PDCAサイクル。計画(Plan)を立て、実行(Do)し、評価(Check)し、改善(Action)する。まさに仕事の基本中の基本とも言える手順だ。だが最近、ふと思ったことがある。

「いや、今さらPDCAなんて言うまでもなく、みんな普通にやってるだろ」

例えば、出社して何の計画も立てずにデタラメにキーボードを打ち始める奴がいるか?「今日は昨日の出張報告書を書こう」「リーダーに言われた○○製品を作ろう」そういった最低限のPlanくらい、誰でも自然にやっている。

Do? 立てた計画に対し、全く実行しない奴なんているか? 例えば、仕事が明確に割り振られているのにも関わらず、勤務時間中ボーっと何もせず立って or 座っているだけの従業員とか。

Check? 成果物を自分なりに確認する人も多いし、品質検査もある。ただ、CheckとActionが形式だけで終わっている場合はあるかもしれない。とはいえ、PDCA的な動きは、現場の誰もがすでに自然にやっているのだ。


それなのに、なぜ現場は良くならないのか?

ここに大きな違和感がある。「PDCAはやってる」「報告書にも書いてある」「手順書にもPDCAが載ってる」――それでも、製造不良は減らないし、改善も一向に進まない。

なぜか。

それは、PDCAサイクルそのものに限界があるからだ。

PDCAの構造的な欠陥

  1. いきなりPlanに着手してしまう
    • 現場でよくある「とりあえず計画しよう」という動き。でも、その計画はどんなデータに基づいている? 本当に問題点を定義できている?
  2. Actionのあとの標準化が弱い
    • せっかく改善しても、それを標準化・共有せず、また元に戻る。つまり、改善が一回限りで終わる
  3. 「回す」だけになっている
    • サイクルを回すことが目的化。中身がないままPDCAを唱えているケースがある。

具体例:教育して終わりでは再発する

例えば、不良が生じたとして、「作業者教育」を対策として選び、実施まで完了したとしよう。PDCAでいえば、Plan→Do→Check→Actionまでは一通り実行していることになる。

だが、対策が終わったからといって本当にそれで良いのか? 教育を受けた本人は理解していても、手順書が古いままだったり、他の作業者に伝わっていなかったりすれば、同じ不良は数か月後に再発することになる。

これはまさに製造現場でよくある話だ。

PDCAを実施していたはずなのに、なぜ再発したのか?

それは、PDCAのフレームワークには「標準化(Standardize)」や「横展開(Deployment)」といった考えが含まれていないからである。Actionで終わってしまうと、対策が場当たり的になり、他ラインや他工程への伝播も起きない。


改良フレームワークの登場

こうした限界を補うために、PDCAを改良したフレームワークがいくつか提案されている。

  • PDCAS:Actionの後にStandardize(標準化)を追加
  • PDCAD:Actionの後にDeployment(他工程や他ラインへの横展開)を追加

しかし、これらもPlanの不十分さを補えているわけではない。


DMAICという視点

そこで登場するのが、DMAICというフレームワークだ。

これはもともとシックスシグマの手法だが、問題解決の筋道として非常に理にかなっている。

  • D(Define):問題を定義する
  • M(Measure):現状を測定する
  • A(Analyze):原因を分析する
  • I(Improve):改善策を立てて実行する
  • C(Control):改善を維持・管理する

最初にいきなりPlanせず、問題の定義やデータに基づいた分析を重視するのが大きな特徴だ。また、Controlの段階には、「改善を維持・管理する」の説明の通り、標準化や横展開といった考えも含まれている。まさにPDCAサイクルの改良版と言っていいだろう。

DMAICについてさらに深く掘り下げた記事として、以下も参照のこと。


PDCAの“中身”を見直すことが第一歩

もちろん、PDCAがすべて悪いわけではない。むしろ、本当に意味のあるPDCAを行っているかどうかが問題なのだ。

  • Planを「思いつき」で立てていないか?
  • Doで「やったフリ」になっていないか?
  • Checkが「報告書の作成」で終わっていないか?
  • Actionが「対策を打ったつもり」になっていないか?

もし心当たりがあるなら、PDCAを疑うところから始めてみよう。

そして次の一歩として、DMAICのような構造的に強い手法を知ることは、あなたの仕事や職場改善に大きなヒントを与えてくれるはずだ。


PDCAは、誰でもやっている“つもり”になりやすい。

だからこそ、その“中身”を問い直す視点が必要だ。そして「やってるはずなのにうまくいかない」現場こそ、PDCAのその先を考えるべきだ。