転勤を嫌う若者の老害性|メタ知識を得られぬまま年を重ねるリスク

序論:転勤を嫌うのは当然だが……

転勤を嫌う若者が増えている。これは社会の変化として自然であり、誰もが心のどこかで「知らない土地に行くのは不安だ」と思う。ワークライフバランスの観点からも、転勤はライフスタイルを破壊する要素であり、否定的な意見に正当性があることは理解できる。

だが、転勤や配置転換を「一度も経験しないまま大人になることの弱さ」については、語られなければならない。

知識や価値観の“固定化”リスク

今の時代、「学生時代に学んだこと」や「最初に配属された職場で得たスキル・価値観」が、そのまま通用し続けることはありえない。事業のサイクルや改革のスピードは加速度的に速くなっており、また、産業構造そのものが10年単位で激変している。

そんな中で、同じ職場、同じ人間関係、同じ文化にずっと身を置き続けると、自己の常識が絶対のものだと錯覚してしまう。そして、これは中高年になってからの“老害化”の温床となる。

配置転換・転勤がもたらすメタ知識

転勤や配置転換を経験すれば、職場環境や人間関係の“違い”を実体験できる。すると、「どんな場でも通用する普遍的な力(コアスキル)」と「環境によって変わる部分(ローカルルール)」を識別する“メタ知識”が自然と身に付く。

このようなメタ知識があるかどうかで、社会変化に対する構え方・対応力はまるで異なる。

逆に、配置転換をまったく経験していないまま年を取ると、ある日突然、事業再編や業務縮小といった大波にさらされ、強制的に異動・転勤・整理解雇の憂き目に遭う可能性がある。そのとき「変化に対する免疫」が無い人間は、ただ崩れるしかない。

転勤を嫌う3つの理由と、許容される線引き

転勤を嫌う理由は大別して以下の3つに分類できる:

  1. 家庭の事情(介護・育児・持ち家など)
  2. 趣味やライフスタイル(例:同人活動の拠点が都会でしか無理など)
  3. 視野の狭さ・経験不足による恐れ

①は当然ながら配慮すべきだし、②も個人の自由として理解可能だ。

しかし③、「地元しか知らないから怖い」「知らない世界に飛び込むのが嫌だ」という理由で転勤を拒絶するのは、経験不足による保守化の現れであり、将来的に“老害化”するリスクを高める要素となる。

この部分は転勤をせずとも補える。旅行パンフレットを眺めたり、地域統計に触れたり、地方出身者と交流したり、実際に旅行したりすれば、世間の広さは見えてくる。要は、自分の環境を“当たり前”だと錯覚しないことが大事なのだ。

結論:未来の自分のために“異なるもの”に触れよ

転勤を無条件に肯定するわけではない。だが、環境が変わることによって得られる知見や視野の広がりは、人間としての柔軟性・寛容さ・対応力に直結する。

将来、意見を押し付ける“老害”にならないためにも、若いうちに「自分の常識を疑う機会」を持っておくべきである。そのための経験が、たまたま転勤という形で訪れるのなら、それは決して悪い話ではない。