機械系から見たIPA試験の価値
――現場主義の壁と、体系知の可能性――
現場には存在しない「IPA試験」
筆者は機械工学を専門とし、10年近く社会人として実務を重ねてきたエンジニアである。そんな立場から見たとき、IPA試験(情報処理技術者試験)は、機械系の現場ではほとんど話題に上がらない資格のひとつだ。
たとえば筆者の職場は40代〜50代の技術者が中心で、IPA試験の存在すら知らない人も多い。受験しても評価されるわけではなく、「IPAってなに?」という反応がほとんどだ。機械系の現場では「実務第一」「資格より経験」という価値観が根強く、資格取得を軽視する文化がある。
学ぶ関心の変化:技術からマネジメントへ
かつて筆者自身も学生時代に基本情報技術者試験の問題を解いたことがある。その当時はプログラミングやセキュリティといった「技術」の部分にしか関心がなかった。しかし、いまは違う。社会人として10年近く働くなかで、むしろマネジメントや経営といった視点の重要性を痛感している。
この意味で、IPA試験の良さは「技術」に加えて「組織運営」や「マネジメント」まで含めた包括的な知識体系を学べる点にある。プロジェクトマネジメントやシステム開発手法、経営戦略など、機械系の専門資格ではほとんど扱われない領域が、IPA試験では当たり前のように出題される。
プロジェクトマネジメントという“共通言語”
一方で、こうした体系的知識の価値は、機械系ではなかなか浸透しにくい。プロジェクトで「スクラム型開発を取り入れてみたい」と若手が提案したとしても、「そんな言葉聞いたことがない。勝手にやり方を変えるな」と年長者に一蹴されることも少なくない。マネジメント理論に基づく議論の土台がそもそも共有されていないのだ。
情報系では「スクラム」や「ウォーターフォール」などの開発手法を、深く理解して実践できるかは別としても、資格試験などで一度は耳にしているため、最低限の共通言語がある。そのため新しい概念にもある程度の耐性がある。だが機械系ではその「共通言語」が欠如している。そもそも管理職層がマネジメントを学術的に学んだことがないケースも珍しくない。
IPA試験を通じた“相対化”の視点
こうした背景から、機械系技術者である筆者は、IPA試験にて"共通言語"が浸透している情報系の分野をうらやましく思っている。たとえ直接の実務に直結しなくても、異なる業界で体系化されている知を知ることで、自分たちの分野の“常識”を相対化するきっかけになる。現場主義の功罪を見直すツールとして、IPA試験は機械系技術者にとっても、じゅうぶん価値があるのだ。
具体的に、機械系(CAD試験、機械技術者試験)とか、化学系(危険物取扱者、毒劇物)とか、電気系(電気工事士、電験三種)試験で、IPA試験のように「プロジェクトマネジメント」や「組織運営」といったマネジメント関連の知識を問うものがあるだろうか?
もしそのような知識が体系的に問われないのだとすれば、私たちの属する業界は、プロジェクトの進め方や組織の在り方において、重要な共通言語を持たないまま仕事を続けているのかもしれない。