応用情報技術者と行政書士は“同レベル”?
技術者にありがちな自己評価の高さに違和感
Wikipediaの「同程度」表記に驚き
日本語版Wikipediaの「応用情報技術者試験」のページには、行政書士試験と“同程度の難易度”という記述がある。これを初めて見たとき、私は目を疑った。応用情報技術者試験(以下、AP)はすでに取得済みであり、行政書士試験についても一定の関心を持ってきたが、その感触からしても、この評価には大きな違和感がある。
私は、行政書士試験そのものをきちんと学んだわけではないが、憲法・民法・商法・行政法については入門書レベルの学習をしており、行政書士のテキストや問題集を眺めてみたこともある。その上で感じたのは、「これは単に“ジャンルが違う”というだけでは片付かない違いがある」ということだった。
技術資格と法律資格の「質的な違い」
APは、IT知識全般に関する幅広い出題と、午後試験での記述問題を特徴とする。情報系出身者であっても一定の準備が必要であり、合格率は例年20%台とされている。ただし、これは「ITにある程度慣れた人」にとっての話だ。
実際、応用情報は本気で学習すれば、午前は過去問道場で10年間分の過去問800題×最低2周、午後は、数年分を1回解いて問題形式に慣れれば、「午後は国語問題」と揶揄されるように、国語能力が高ければ合格することも十分可能だ。つまり、論理的な文章読解と基礎知識があれば、一定の効率で突破できる構造になっている。
対して行政書士は、法律系の国家試験であり、主要科目は憲法・行政法・民法など。中でも行政法の分量が非常に多く、条文暗記と判例の理解が求められる。ITと異なり、根本的に「言葉の意味」や「文脈での正確な理解」が問われるため、知識の性質がまったく異なる。
技術者がはまりがちな“自己評価バイアス”
IT業界に身を置いていると、「自分の分野の知識は専門的で高度だ」と無意識に考えてしまうことがある。数式がある、アルゴリズムがある、暗記より理解が求められる──それゆえに、法律系資格を“文系の暗記モノ”と軽視しがちだ。
しかし、実際に行政書士の教科書を開いてみると、この思い込みが崩れる。制度の細かさ、言葉の使い分け、問われる判例知識──いずれも“実務的かつ精緻”であり、IT系資格とは別種の知的体力が必要だと感じた。
「合格率」だけで測れない難易度
Wikipediaの“同程度”評価は、おそらく合格率など数値上のデータを根拠にしている。しかし、合格率が似ているからといって、試験の難易度が等しいとは限らない。受験者層の前提知識、出題分野の異質性、学習に要する時間の質と量など、無視できない要素が多数ある。
たとえば、APは情報系出身者にとって“すでに知っている内容”も多いが、行政書士は多くの人にとって未知の法体系との初対面である。そこには、「慣れ」の壁がある。
本当に難しいのは「慣れない分野」
私自身の経験から言えば、「応用情報」と「行政書士」を並べて同列に語るのは、乱暴すぎる。分野が違えば、戦い方も異なる。そして、もっとも厄介なのは、自分が普段触れていない世界の知識に飛び込むときだ。
だからこそ思う。「本当に難しいのは、“慣れていない分野”の資格試験だ」と。自分の専門分野に安住せず、異なる体系の知識に敬意を払う視点こそ、プロフェッショナルとしての謙虚さなのではないだろうか。