Anki FSRS徹底検証:効果があるのはどんな人か?

FSRSとは何か? Ankiに入れるとどうなるか? Ankiは、覚えた情報を忘れにくくするためのツールである。これは「忘却曲線」と呼ばれる理論に基づいており、学習した情報を最適なタイミングで復習できるように設計されている。 その中で使われているのが「SM-2アルゴリズム」という方法である。これは1987年にSuperMemoというソフトで初めて使われたもので、復習のタイミングを自動で決定する。 最近では、より高度な「FSRS(Free Spaced Repetition Scheduler)」という新しい仕組みも登場している。これは過去の学習記録をもとに、機械学習によって最適な復習タイミングを計算するものである。 FSRSを導入して何が起きたか【体験談】 筆者はこのFSRSをAnkiに導入して試してみた。FSRSを使う前は、8000枚ほどの成熟したカードがあり、1日に多くて200枚近くの復習が発生していた。しかし、長期記憶に移行するにつれ、1日の消化数は減少し、1年後には50枚/日前後に収まると予測された。また、実感としても記憶の定着具合は良好であった。 しかしFSRSを導入したところ、同じくらいのカード数でも復習枚数が急増し、最大で1日5000枚に達した。導入直後は、アルゴリズムの変更により膨大なカードが当日の学習ノルマとなるという、まさに警告通りの状態となった。その後も、1年間にわたり毎日200枚前後の復習が続くという予測となった。8000枚に対して200枚/日を消化しなければならないということは、40日サイクルで全カードを復習することになる。これが1年後の状態であるならば、記憶が定着していないということになるし、そもそもエビングハウスの忘却曲線の理論にも反しており、異常である。 FSRSの落とし穴:なぜ復習が爆増するのか? FSRSは、初回の学習ログや忘却ログもすべて機械的に分析して、復習間隔を最適化する学習モデルを作成する。しかし、Anki内で初学習や「間違えたあとに覚え直す」ような使い方をしていると、失敗データが多く蓄積される。このような学習履歴はFSRSのモデルに悪影響を与え、必要以上に短い間隔での復習が続いてしまうことがある。 逆に、Ankiに追加する時点である程度理解できているカードだけを入れるようにすると、FSRSのアルゴリズムはより正確に働く傾向がある。 そのため、FSRSではすべてのカードを約40日に1回の頻度で復習させるようなスケジュールになりやすい。これは、いわゆる忘却曲線の理論とは乖離しているように感じられる。 FSRSが向いている人・向いていない人 FSRSは、Anki上の学習履歴に基づいて最適な復習タイミングを計算する強力なスケジューラである。すでに知識がある状態でカードを作成し、Ankiでは復習だけを行うような使い方をしている人にとっては、FSRSは非常に効果的に働く。 しかし、以下のような使い方をしている人には不向きな場合がある: Anki内で初めて知識を覚える(=初学習もAnkiで行う)人 間違えたカードを何度もAnki内でやり直して覚え直すスタイルの人 すでにカード枚数が多く、復習負荷を抑えたい人 復習間隔を長期スパンで安定させたい人 FSRSは学習ログ全体をもとにモデルを組むため、「失敗回数の多さ」や「初学習の履歴」が過剰に反映されると、復習間隔が不自然に短くなる傾向がある。そのため、運用には一定の注意と相性の見極めが必要である。 結論:FSRSは誰に向いているか? 現在は元のSM-2方式に戻し、復習の負荷を安定させている。当分の所、FSRSを導入するつもりはない。 FSRSは鳴り物入りで紹介されがちだ。しかし、すでに定着したカードに対して無理にスケジュールを変更することは、学習者にとって精神的な負担となる可能性があることが分かった。 ちなみに、わたしの現在のAnki運用状況(カード枚数や習慣化の様子)は、以下の記事で詳しく紹介している: Ankiの使い方と学習法|初心者でも続けられる最強の記憶術 FSRSに関するQ&A(FAQ) Q. FSRSはすべてのAnkiユーザーにとって有効なのか? A. 必ずしもそうではない。Anki内で初めて知識を覚える使い方をしている場合、FSRSは過剰に復習を要求する傾向があるため、運用が重くなるおそれがある。 Q. FSRSを効果的に使うにはどうすればよいか? A. 初学習はAnkiの外で済ませ、Ankiには「すでに理解した内容」だけを登録し、復習専用として活用することが望ましい。 Q. FSRSを導入したら復習が激増した。これは失敗なのか? A. 失敗ではないが、学習履歴がFSRSにとって好ましくない形式で記録されていた可能性がある。いったんSM-2に戻して復習を安定させるのも一つの方法である。 Q. FSRSを導入すべきタイミングはいつか? A. カード総数がそれほど多くなく、学習スタイルが固まってきた段階での導入が望ましい。初期学習と復習を明確に分離できていれば、FSRSは強力なツールとなる。

2025年5月29日

Ankiの使い方と学習法|初心者でも続けられる最強の記憶術

Ankiって何? どうやって使うの? 本当に覚えられるの?──そんな疑問を持った人向けに、この記事では「Ankiの使い方」から、「なぜ続くのか」「どんな効果があるのか」まで、実際に1年近く毎日使い続けてきた視点から紹介する。 Ankiとは? どんなアプリなのか Ankiは、フラッシュカード形式で記憶の反復を支援する無料アプリである。エビングハウスの忘却曲線に基づき、「復習タイミング」を自動で管理してくれるため、覚えたことを効率よく長期記憶に変えることができる。語学、資格試験、プログラミングなど、あらゆる分野の学習に使われている。 もう覚えられない、と感じたことはないか どれだけ時間をかけて勉強しても、数日後には驚くほど内容を忘れてしまう。そんな経験は、多くの人にあると思う。人間の脳は、放っておくと本当にすぐに忘れてしまう。 自分は昔からそういうのが気になって、大学受験のときに「エビングハウスの忘却曲線」を本で読んで知った。知ったのはいいが、当時はスマホもない時代で、全部手作業で管理しようとしていた。ノートの右上に日付を書いて、「このノートは3日後、7日後、14日後に見返す」みたいなスケジュールを作って、ファイルで管理していた。でも、これがとにかく手間で、しかもやっていても途中で見返し忘れたりして、結局途中でやめてしまった。 今の時代、そんな煩わしいことを自動的にやってくれるツールがある。Ankiだ。 Anki公式サイト 30代からの勉強と、Ankiの効果 他の記事でも、30代になってから資格学習を始めたことを書いたが、大学受験・大学時代の学習から時間が経っており、記憶力の衰えに不安を感じていた。「20代の頃より覚えが悪くなっているかもしれないな」と思いながら、何か補助になるツールはないかと探していてAnkiに出会った。 やはり科学的に理にかなった学習方法というのは効果が凄まじく、さほど苦労せずに記憶の定着化が進んでいる。Ankiを使い始めたのが、2024年7月2日で、現在は2025年5月12日。あと2か月ほどで1年になる。現在のAnkiカード枚数は以下図の通り。効果が目に見えて感じられるので、飽きずに続けられている。 なお、FSRSという新しい復習スケジューラを使ってみた体験記事もある。導入して復習枚数が5000枚に増えたという衝撃の内容である。 FSRSとは何か? Ankiに入れるとどうなるか? Ankiの習慣化 今では、朝起きたらAnkiを開いて復習するのが完全に習慣となっている。強制的に学習しなければいけないカード数が表示されているので、翌日にスキップした時のノルマのプレッシャーを感じると、朝に優先してやらなければならないと感じている。これに慣れたら、むしろ復習しないと一日が始まった気がしなくなった。連休のときも「今日はAnkiやらないといけないから、遠出はやめとこうかな……」と思ってしまうくらいで、自分でもちょっと中毒気味だと思っている。 入力が面倒? でも結局それが一番ラク おそらく、Ankiの使用に一番躊躇う点があるとすれば、いちいちカードを作ってインプットしていく点だろう。自分も最初は面倒に感じた。けれど、やってみると意外と気にならなくなる。むしろその入力作業が学習になっていて、「あとでこれを思い出すときに役に立つな」と思いながらカードを作っている。 大学時代に経験したのは「一夜漬けで乗り切ったけど、半年後にはきれいに忘れている」というパターン。これを何度も繰り返してきた。そういう学び方は、結局将来に残らない。Ankiはそういう“学び捨て”を防いでくれるツールだと思う。 少し手間でも、一度カードを作れば、あとはAnkiがスケジュールを管理してくれる。自分で日付を書いていた頃と比べると、雲泥の差だ。 Ankiは、未来の自分への投資 これからAnkiを使ってみようかなと思っている人には、「とりあえず一週間だけでも使ってみて」と伝えたい。使えばすぐに「これは手放せない」と思うようになるはずだ。 記憶に自信がない、何度やっても覚えられない、でも本気で何かを身につけたい——そう思っている人にこそ、Ankiは向いている。 忘れるのは仕方ない。でも、思い出せる仕組みを持っていれば、それで十分だ。Ankiはその仕組みをくれる、頼もしいアプリだと思っている。

2025年5月12日