BtoB技術者が押さえておくべき6つの法律

製造業や技術職に従事する者にとって、法律は“他人事”ではない。とくにBtoB取引に関わる技術者は、知らぬ間に法律違反の一端を担ってしまうリスクすらある。本記事では、技術者が最低限理解しておくべき6つの法律を簡潔に紹介する。 1. 製造物責任法(PL法) 製品の欠陥によって他人に損害を与えた場合、企業は損害賠償責任を負う可能性がある。設計や検査に関わる技術者にとって、品質や安全性の管理はこの法律と密接に関係する。 2. 下請法 開発委託や部品の外注といった場面では、親事業者の立場にある企業が法的な義務を負う。不当な仕様変更や短納期の押し付けなど、技術者の判断が違法行為に繋がることもある。 3. 不正競争防止法 設計図、試験データ、製造ノウハウなどは“営業秘密”に該当する場合がある。外注先への技術資料の提供や、退職時の持ち出しに注意が必要である。 4. 輸出管理(外為法) 海外との取引においては、図面データの送信や技術指導が「みなし輸出」に該当することがある。先端技術や安全保障に関わる分野では特に慎重な対応が求められる。 5. 労働法 技術部門であっても、36協定、時間外労働、裁量労働制といった法制度を理解しておく必要がある。管理職に就く技術者には、部下の労働環境にも法的責任が及ぶ。 6. 景品表示法 製品の性能や品質を過剰にアピールした場合、誇大表示とみなされ違法となることがある。展示会のパネルや営業資料の表現にも注意が必要である。 おわりに 以上の6つの法律は、法務部門だけでなく技術者自身が理解しておくべき基礎知識である。今後、本ブログではそれぞれの法律について、実務視点から掘り下げた記事を順次公開していく予定である。

2025年7月14日

パブリックドメインの写真に「転載禁止」?──博物館による囲い込み問題を考える

著作権の保護期間が切れた明治時代の写真。それらは本来、人類共有の文化財として、誰もが自由に使える**パブリックドメイン(public domain)**に属するはずだ。しかし、現実にはそうした写真に対して、博物館が「無断転載禁止」と明記している事例が少なくない。 これは法的に許されるのだろうか? 倫理的に妥当なのか? そして、こうした行為は博物館の使命に照らして正しいのか? この記事では、法律・倫理・思想の観点から、この問題の本質を掘り下げてみたい。 所有権と著作権の混同 まず確認すべきは、所有権と著作権は別物という大前提だ。博物館が明治時代の写真(例えばガラス乾板や古写真プリント)を保有している場合、確かにその「物理的な所有権」はある。しかし、そこに写っている表現についての権利、すなわち著作権は、原則として写真家の死後70年で消滅する。 つまり、その写真に著作権が残っていない場合、表現の自由な利用はすでに誰にでも認められている。ただ保管しているだけの博物館には、他人の利用を制限する権利は本来存在しない。 なぜ博物館は「禁止」と言うのか? では、なぜ博物館が「転載禁止」と主張するのか。その根拠としてよく出されるのは以下のような論点である: スキャンやデジタル修復に創作性がある 利用者が利用規約に同意したとみなされる 文化財保護や商業利用の抑制のため しかし、忠実なスキャン画像に創作性は基本的に認められないというのが、日本を含む多くの法域での判例・通説である。さらに、単にサイトに記載されているだけの禁止文言が、法律に優越することはない。利用規約の同意がなければ、契約違反にもなり得ない。 結局のところ、これらの主張は法的な裏付けが弱い「お願い」や圧力に過ぎない。 学術的自由と知の公正性 明治時代の写真は、単なる懐古趣味の対象ではない。都市景観、衣服、社会構造、植民地政策、ジェンダーなど、あらゆる学術分野にとって極めて重要な視覚的史料である。これを「無断転載禁止」として閉じ込めることは、研究・教育・報道に対する妨害に他ならない。 本来、博物館は知の番人であり、アクセスと再利用を可能にする存在であるべきだ。にもかかわらず、パブリックドメインにあるべき表現を「うちの所蔵物だから」として独占的に扱う姿勢は、知の門番に成り下がることを意味する。 国際的にはどうか? 欧米ではすでに、「OpenGLAM(Galleries, Libraries, Archives, Museums)」という運動が進んでおり、メトロポリタン美術館やライデン大学図書館などが著作権が切れた画像を明示的にパブリックドメインとして公開している。 彼らはこうした行為を、文化機関の責務と考えている。対して、日本の一部の博物館では、未だに「所蔵者による独占」という意識が強く残っているように見える。 結論:文化財は囲い込むな 著作権が切れた明治時代の写真は、公共財である。博物館がその再利用を制限することは、文化の発展を妨げ、学術的自由を侵害し、市民の表現を不当に抑圧する行為である。 所蔵者であることを理由に、著作権のない表現の利用を禁止する行為は、法的にも倫理的にも許されない。 文化を守るとは、囲い込むことではない。文化は開かれてこそ、生きた財産になる。 もし本記事が示すような事例に出会った場合は、是非その画像が本当にパブリックドメインかどうか確認し、堂々と使ってほしい。わたしたちは、文化の泥棒にはならない。

2025年6月15日

各士業の守秘義務一覧

各士業の守秘義務一覧 情報処理安全確保支援士の罰則に関する以下記事を作成した際、他の士業についても、同程度の罰則があるということを示すため、様々な法律を調べました。その結果を一覧として公開します。 情報処理安全確保支援士の罰則は重すぎる?|他士業との比較と検証 不正競争防止法 不正競争防止法 第21条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 情報処理安全確保支援士 情報処理の促進に関する法律 第25条(秘密保持義務) 情報処理安全確保支援士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。情報処理安全確保支援士でなくなつた後においても、同様とする。 情報処理の促進に関する法律 第59条 第25条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 医師・弁護士 医師法 第17条の3 前条の規定により医業をする者は、正当な理由がある場合を除き、その業務上知り得た人の秘密を他に漏らしてはならない。同条の規定により医業をする者でなくなつた後においても、同様とする。 弁護士法 第23条(秘密保持の権利及び義務) 弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。 但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 刑法 第134条(秘密漏示) 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。 刑法 第135条(親告罪) この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 行政書士 行政書士法 第12条(秘密を守る義務) 行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。 行政書士法 第22条 第十二条又は第十九条の三の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 弁理士 弁理士法 第30条(秘密を守る義務) 弁理士又は弁理士であった者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。 弁理士法 第80条 第十六条の五第一項、第三十条又は第七十七条の規定に違反した者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 税理士 税理士法 第54条(税理士の使用人等の秘密を守る義務) 税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者でなくなつた後においても、また同様とする。 税理士法 第59条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 三 第三十八条(第五十条第二項において準用する場合を含む。)又は第五十四条の規定に違反したとき。 2 前項第三号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 公認会計士 公認会計士法 第27条(秘密を守る義務) ...

2025年5月5日